美しく機能的な景観をもつ持続可能な地域社会の実現

美しく機能的な景観をもつ持続可能な地域社会の実現

お知らせ

センター長挨拶

山形大学農学部では、野生動物管理の分野で日本を代表する研究者や、共有林を対象としたコモンズ研究の第一人者など、農山村が抱える諸問題の解決に貢献できる研究者が在籍し、多様な研究を展開してきました。その一方で、現代の農山村が抱える課題(野生動物被害、荒廃する森林、限界集落、人畜共通感染症など)は多様であり、かつ相互に関係・複雑化していることから、その解決は容易ではありません。

そのような現状に対応するため、また、農山村に係る本学の研究機能をさらに発展させるべく、全学の教育研究支援組織として本センターを令和6年4月に設置しました。

山形大学の総合知を活かし、農学部のみならず、人文社会科学部、理学部、医学部、工学部の教員参画も得て、森林資源の最大活用と野生動物管理の革新による農山村の再生を目指します。

皆様からのご支援・ご協力を賜りながら、活動を展開して参りたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

農山村リジェネレーション共創研究センター
センター長 村山 秀樹

センター設立の背景

人口減少が進む中、日本の農山村や地方都市では農林業の担い手不足や地域経済の衰退だけでなく、日常生活の維持も困難になりつつあります。
地域が抱える問題(野生動物被害、荒廃する森林、限界集落、人畜共通感染症など)は多様であり、かつ相互に関係しているため、現在の課題を一つずつ解決する方法ではすでに手遅れの状態であるといえます。

野生動物は人に危害を加え、農地を荒らすだけでなく、病原体も運びます。野生動物の管理には、森林を適切に管理し、人間の生活空間から遠ざけることが効果的です。

森林は木材生産だけでなく、二酸化炭素を吸収・蓄積し、多様な生物の生息地で、土砂災害防止や水資源涵養など多くの機能を有していますが、これらを最大限に活用するためには適切な機能評価とそれに合った管理が必要です。

本センターでは、野生動物と森林資源の管理の革新で、多くの問題を同時に解決することによって、農山村の衰退を食い止めることを目指します。

センター設立が目指すもの

ビジョン・構想

野生動物研究部門

森林、農地、宅地の変化による影響を調べるために、野生動物の生態を考慮した生息地予測、人間とのかかわりの中での加害性予測、マダニ感染症の媒介に関する調査を行う。あわせて、効率化・低コスト化を可能とする野生動物モニタリング調査の新たな技術開発を行う。

安全・健康研究部門

野生動物由来の感染症のリスク評価研究を行う。野生動物の生息地の変化がマダニ類が保有する病原体や薬剤耐性菌による汚染にどのような影響をおよぼすか調べる。また、地域社会ニーズの影響として、斜面崩壊(土砂崩れ)のリスク評価研究も行う。

生活・経済研究部門

新しいコモンズの提案とそれに関する合意形成に関する研究を行う。また、集落の再編の成功条件や外部人材および先端技術が果たす役割を評価する。さらに、統合的アプローチを用いた新たな地域資源利用・管理のあり方を提示する。

森林資源管理研究部門

スギ人工林だけでなく多様な広葉樹林の森林バイオマスの推定手法とその脱炭素機能(カーボンクレジット)の定量手法の開発を行うとともに、森林が有する生物多様性保全、土砂災害防止などの機能を総合的に評価する方法を開発する。

スタッフ紹介

野生動物研究部門

部門長 江成 広斗

【専門分野】森林動物管理学

【研究概要】

縮む社会が主因となって深刻化する野生動物由来の様々な生態リスク(農林業被害、生活被害、人獣共通感染症、生物多様性の変化)を見える化し、社会に実装可能な対応策を数多く提案することを目標に研究を展開しています。ここでは特に、様々な時間・空間スケールからどのような問題解決が可能かについて、「動物側」と「市民側」の双方の視点からの実学を重視しています。また、「なぜ野生動物と共存すべきか?」という、市民の多くが抱く素朴な疑問に答えるべく、中型・大型の哺乳類が森林生態系にて果たす機能の解明に向けた基礎研究も進めています。

斎藤 昌幸

【専門分野】景観生態学・野生動物学

【研究概要】

人間活動と野生動物の関係や、野生動物における種間関係、中型哺乳類の基礎生態を明らかにするための研究をおこなってきました。
本センターでは、野生動物の分布回復や外来哺乳類の侵入といった野生動物の生息状況の変化が、生態系や人間社会にどのような影響を与えるのか明らかにすることを目指します。

横山 潤

【専門分野】多様性生物学・植物系統分類学

【研究概要】

植物が他の生物(昆虫や微生物)とどのような関係をもちながら生きているのかについて、主に植物側の視点で研究を行ってきました。本センターでは、野生動物の分布拡大や個体数の増加が植物の生存や繁殖、さらに植物に関わる他の生物の生存にどのように影響するのかについて明らかにすることを目指して研究を行います。絶滅が心配される希少植物への影響にも注目していきたいと考えています。

安全・健康研究部門

部門長 西山 正晃

【専門分野】環境衛生工学、環境微生物学

【研究概要】

ヒトの健康に関連した微生物を対象として、国内外の水環境のフィールドワークと分子生物学の技術を活用したラボワークの両面で研究を行っています。特に、クスリの効かない細菌(薬剤耐性菌)の環境中での実態やそれらの拡散経路の解明に向けた研究に取り組んでいます。ここでは、人獣共通感染症への感染リスク評価の研究を実施し、県内のワンヘルスに貢献する分野横断的な研究の推進を目指します。

小峰 浩隆

【専門分野】生態学

【研究概要】

私はこれまで、侵略的外来種の導入や都市開発、マダニ媒介性感染症等について、哺乳類、鳥類、両生類、マダニ類を主な対象に研究に取り組んできました。本センターでは、気候変動や人間活動の縮退という大きな変化の中で、感染症を媒介するマダニ類やその宿主動物との複雑な関係の一端を理解しようと研究活動に取り組んでいます。今まさに変化しつつある自然及び社会環境の中で、私たち人間と野生生物の相互作用を少しでも理解し、共存に貢献できればと考えています。

張 海仲

【専門分野】地盤工学・地震工学

【研究概要】

主に土砂災害のリスク評価に関心を持っており、地震による斜面崩壊のハザード評価に関する研究に取り組んでいます。本センターでは、確率論地震ハザード解析(PSHA)に基づく斜面崩壊ハザード評価手法の開発を中心に研究を進めています。また、開発した手法を用いて、庄内周辺の断層帯を考慮して庄内山地における斜面崩壊リスクを評価し、土砂災害のハザードマップを作成します。このハザードマップを活用することで、リスクの高い斜面を事前に特定し、効果的な予防策や住民の避難計画の実施を通じて被害の最小化が期待されます。さらに、ハザードマップを公表し、地域住民の防災意識の向上や、災害への備えの強化にも寄与すると考えられます。

浜本 洋

【専門分野】微生物学・化学療法学

【研究概要】

薬剤耐性菌(AMR)対策において多剤耐性菌の抗菌薬に対する耐性メカニズムを明らかにすることは必要不可欠です。
薬剤耐性菌のゲノム情報を解析し、その耐性遺伝子の同定を行っています。また、AMRに対抗するためには新しい抗菌薬や治療法の開発も重要な課題となっています。我々は、土壌に存在する細菌が生産する二次代謝産物を利用して、カイコを用いた治療効果を指標とした新規抗菌・抗真菌薬の探索と開発を行っています。

生活・経済研究部門

部門長 林 雅秀

【専門分野】林業社会学

【研究概要】

ミクロ・マクロの社会環境が森林・林業に関わる人や組織の選択に与える影響について研究を行っています。具体的には、森林所有者や林業事業体を対象として、さまざまな社会関係や制度が所有者の意思決定や事業体のパフォーマンスに及ぼす影響を明らかにしています。また、コモンズに関わって、共有林利用者集団の集団規模や集団内の社会構造が、組織としての造林や伐採などの選択や関連するルールの制定に及ぼす影響を明らかにしつつあります。

渡辺 理絵

【専門分野】中山間地域の集落機能と生業の維持(人文地理学)

【研究概要】

私は人口減少の進む中山間地の集落機能や生業をどのように維持していくべきかについて研究しています。中山間地が抱える問題の解決にむけて、住民による意思決定は不可欠であり、その過程では集落機能の再生および既存集落の再編などは検討すべき選択肢となります。また人のつなぎ直しの面では地縁的なつながりといった内部的連関にくわえて、外部人材を巻き込みながら共通の関心や目的によって協働をはかるアソシエーション的な組織(例:農村RMOなど)の形成も考えられます。本センターでは、このような中山間地の「地域づくり」を中心とした研究を行い、ローカル・ガバナス、民主的な参加プロセス、主体間の信頼構築の方策などに着目しながら持続的な中山間地のあり方を解明していくことを目指します。

桒原 良樹

【専門分野】農村計画学

【研究概要】

人口減少社会における持続可能な農山村地域を形成するため計画(理論や手法など)について、人・地域資源・エネルギー観点から下記の研究に取り組んでいます。

  • 地域資源(農地や地域行事など)の管理・利用継承に関する研究
  • 地域おこし協力隊の活用方策の検討に向けた隊員・地域・自治体間の関係構築に関する研究
  • 営農型太陽光発電の導入促進に向けた設置による影響評価に関する研究

本多 広樹

【専門分野】人文地理学

【研究概要】

地域における先端技術の普及と活用について、誰がどのように関わっているのかに着目して研究しています。本センターでは、技術の発達による作業の省力化が社会関係に及ぼす影響について、知識や経験の伝播経路をヒアリング調査とデータ分析を通して明らかにすることで、地域の社会関係を形成・維持するうえでの先端技術の役割を考察したいと思います。また、従来地域を維持していた社会関係や、その変化が現在の地域に及ぼす影響についても調査・分析を行います。こうした研究によって「新しいコモンズ」において有益な社会関係のあり方を示すことを目指します。

森林資源管理研究部門

部門長 林田 光祐

【専門分野】森林保全管理学

【研究概要】

森林資源管理研究部門長として、部門全体の研究計画の推進を担っています。特に、広葉樹の活用は研究の柱であり、多様な樹種の特性を活かした資源量の把握から育成・更新の技術、利用の開発まで一連の研究を部門をあげて取り組んでいます。また、この部門の目標である多様な機能を有する森林を最大限に活用するために、森林の多機能を価値化する指標を科学的な根拠をもとに開発・提案し、それをもとにした森林クレジットを活用した森林管理システムの構築をめざしています。

LOPEZ CACERES Maximo Larry

【専門分野】森林学・環境学・リモートセンシング

【研究概要】

これまでロシアやモンゴル、中国、日本の森林で研究を行い、樹木レベルの研究と森林レベルの研究との間につながりが欠けていることに気づきました。森林調査にドローンを利用できるようになって以来、樹木、森林両方のレベルを観察し、複雑な森林や複雑な地形における森林の目録や個々の樹種の識別、樹木の成長と樹木の健康状態など森林の特徴をより正確に理解できるようになりました。
さらに、画像の高画質化により、単木レベルや大規模な森林の特性を自動評価できるディープラーニングモデルの学習にも活用可能となりました。
現在は、国内(山形・宮城・岩手)の様々な森林で研究を行うとともに、国外(モンゴル北部)でも研究を行っています。

芦谷 竜矢

【専門分野】森林化学

【研究概要】

樹木の生産する成分の分析や、抽出成分の生物活性、有効利用法を研究しています。未利用または効果的に利用されていない樹木資源に含まれる有用成分の探索や、成分の機能解明をこれまで行っていました。当センターでは主に森林に生育する効果的に利用されていない低木類の成分について研究を行い、より効果的に森林資源を利用するための基礎的な知見を提供することを目指します。

菊池 俊一

【専門分野】森林科学・流域保全学・攪乱生態学

【研究概要】

火山噴火や洪水、地すべり、土石流などの様々な自然攪乱や、各種の開発・土地利用といった人為攪乱と植物群集動態の相互関連を多彩なフィールドワークにより研究しています。また鶴岡市森林公園「ケヤキの森」等を研究対象に、市民と管理者の協働による森づくりや環境修復の技術開発やシステム構築に取り組んでいます。本センターでは、多様な種による針広混交林や広葉樹二次林の持続可能な利用・育成・更新を担う市民参加システムの構築と、オンデマンド対応の供給を見据えた資源管理や萌芽力と多幹を利用した持続的な資源管理を可能とする技術の開発に取り組みます。

DIEZ DONOSO SANTIAGO

【専門分野】情報通信・数理情報学・ライフサイエンス・森林科学

濱 定史

【専門分野】伝統木造構法・建築設計

【研究概要】

伝統木造構法の成立や生業・資源との関係について関心を持っており、特に民家や倉などの小屋、茅葺きに関する研究に取り組んでいます。また、これらの伝統的な木造建築構法を現代建築に活かした建築設計を提案しています。
本センターでは、茅葺き屋根の材料となる茅場を中心とした研究を行い、草資源を用いた新しい建築構法の開発を目指します。